生成AIやAIエージェントは、実験フェーズを越えて日々の業務に入り込みつつあります。その裏で、セキュリティの前提もまた、静かに変わり始めています。
1つは、AIによって攻撃の速度と精度が跳ね上がる「AIに攻められるリスク」。もう1つは、現場で広がるAI活用そのものが新たな死角を生む「AI利用に伴うリスク」。
この2つの潮流を、企業はどう捉え直せばよいのか。本記事ではネットワンシステムズでセキュリティ領域を担う川原・尾山の二人に、変化の全体像と、企業が今日から取り組める現実的な打ち手を聞きました。
今回のインタビュイー
ネットワンシステムズ株式会社
ビジネス開発本部 応用技術部 セキュリティチーム
ネットワークエンジニアの経験を経て、現在はネットワーク、エンドポイント、クラウド、Identity、AIなど各セキュリティ分野の技術支援を担当、CSIRTとしても従事
このブログでわかる3つのポイント
- Mythosの登場、何が変わった? ── Claude Mythosに象徴される「AIが自律的に脆弱性を見つける」時代の到来で、防御側は検証・修正のスピード勝負へ
- AI利用に伴うリスクとは? ── Shadow AIやプロンプトインジェクションなど、"AIを使うこと自体" が新たなリスクになる二面性を整理
- ネットワンと何ができる? ── Innovation Showcaseで体験できるゼロトラスト+「Security for AI」のデモと、マルチベンダー×領域横断のアーキテクチャ視点で伴走するネットワンの強み
目次
Claude Mythosが示した "AIがセキュリティの前提を変える" 衝撃
---AIの普及によって、セキュリティの前提が変わったと感じる最大の変化は何でしょうか。
川原:ここ2〜3年で「Security for AI(AI自体を守る)」と「AI for Security(AIで防御レベルを高める)」という言葉が定着してきました。この2つは今も重要です。一方で今年に入り、Anthropic社のClaude Mythosが世の中を賑わせています。シンプルに言えば、AIの力でシステムの脆弱性を高速に検出する能力を持つもので、非常にインパクトが大きい技術だと捉えています。
特に大きな変化は、攻撃者側のスピードと能力が向上していることです。これまで人が行っていた脆弱性の探索が、機械的に、より高速にできてしまう。明らかに攻撃者に有利な状況へ変わりつつあります。
---脆弱性を「見つける力」が高まると、防御側には何が求められますか。
川原:Claude Mythosの正式リリース前には、Project Glasswingという枠組みで、Palo Alto Networks、Cisco Systems、CrowdStrikeといったセキュリティベンダーに先行提供され、多数の脆弱性を発見できることが示されました。だからこそ、次のような対策が必要となります。
まず重要なのは、自社にとって本当に重要なシステムや資産が何かを定義することです。すべてを100%守りきることは難しいため、価値ある資産は何か、その資産に対してどのようなアタックパス、つまり攻撃者の侵入経路があるのかを可視化することが最優先になります。
次に、脆弱性が見つかったときにすぐ対処できる仕組みです。理想は全システムに常に適切なパッチを当て、最新状態に保つことですが、現実にはすぐに適用できない場合もあります。その場合は、仮想パッチのような仕組みを利用し、正式なパッチ適用までの時間を稼ぎ、リスクを一時的に軽減することも重要です。
さらに、運用そのものの高速化・高度化も欠かせません。従来のように定期的なパッチ適用サイクルで回すのでは、攻撃側の速度に追いつけない。自動化できる部分はシステムに任せ、重要システムに関わる判断は人が担う──そのルール自体を、Mythos時代に合わせて改めて設計し直すことが求められます。
尾山:金融機関向けのガイドラインなどでも、重要なシステムを把握することや、場合によってはシステムを止めてでもパッチ適用を優先する考え方が示されています。今までのように脆弱性の件数や重大度だけを見て判断するのではなく、システムに与える影響度を考慮した対応が求められます。
AI時代のセキュリティは、攻撃対策から "AI利用の統制" へ広がる

---企業のセキュリティ対策の全体像は、AI時代に向けてどのように進化していますか。
尾山:大きく4つの軸で見ています。1つ目はプロアクティブセキュリティ。事後対応のリアクティブ運用では追いつかないため、どこが狙われうるかを継続的に把握し、優先順位をつけて先回りする考え方です。2つ目がランタイムセキュリティで、侵入前提で実行中のワークロードやプロセスの振る舞いをリアルタイムに可視化・制御します。3つ目がアイデンティティ中心のセキュリティ。攻撃はマルウェアだけでなく、認証情報を狙うケースが増えています。加えて、AIエージェントの普及で、人以外の主体──サービスアカウントやAPIキー、アクセストークンといったNHI(非人間アイデンティティ)が急増する点も、この領域の大きな論点です。4つ目がAI SOC、つまりAIで防御運用そのものを高度化する領域です。
---4軸を通してお聞きしましたが、なかでも特にホットな技術トピックとして、CiscoによるIsovalent買収に象徴されるeBPFベースのランタイムセキュリティ(※Linuxカーネル内の挙動を安全に観測・制御する技術。実行時の異常を高精度に検知できる)が挙げられます。これが注目される理由はどこにあるのでしょうか。
尾山:脆弱性の公開から攻撃までの時間が非常に短くなっている一方で、正式パッチがすぐに出て、すぐ適用できるとは限りません。この時間差をどう埋めるかが焦点で、eBPFを使ったランタイムセキュリティは、ワークロードの挙動をリアルタイムに見て、脆弱性の悪用や権限昇格を実行時に抑止できます。Live Protectのような仮想パッチ機能と組み合わせれば、正式パッチ適用までの間も悪用されにくい状態を作れます。
--- AIエージェントの普及で、通信やID管理の前提も変わってきますね。NHI(※非人間アイデンティティ。AIエージェント、サービスアカウント、APIキー、など「人ではない主体」)は、従来のID管理と何が違うのでしょうか。
尾山:NHIはまず数が桁違いに多く、生成・削除のライフサイクルも非常に速い。さらにAIエージェントは複数のシステムやツールを横断して動くため、一つの認証情報が侵害された際の影響範囲が広がります。どのサービスアカウントやAPIキーが存在し、どんな権限を持ち、誰が管理しているのか──ここを可視化することが第一歩です。
川原:セキュリティベンダー各社もアイデンティティ領域への投資や買収を進めており、この1〜2年で実装が一気に進む見立てです。
---ID管理はゼロトラストの中心かと思います。ID管理が人間だけでなくNHIに拡張されることで従来のゼロトラストの考え方に変化はありますか?
尾山:「決して信頼せず、常に検証する」という基本原則はAI時代でも土台のまま残ります。変わるのは適用対象で、人やデバイスに加え、AIエージェント、APIキー、クラウドネイティブなワークロードまで一気通貫のポリシーで扱う必要があります。加えて、最小権限の徹底、必要な時だけ必要な権限を付与するジャストインタイム型のアクセス制御が、より重要になっていきます。
企業にとってより身近なリスク:AIを"利用する側" のセキュリティ
---ここまでは主に "攻撃側がAIで強くなる" という文脈でしたが、多くの企業にとってより身近なのは、社内でAIを "利用する側" のリスクかもしれません。実際の現場では、どのようなご相談が増えていますか。
尾山:大きく3つあります。1つ目はShadow AIです(※会社が把握・許可していないAIサービスが現場で利用される状態)。効率化のために、承認されていないAIに顧客情報、機密情報を入力してしまうケースです。悪意はなくてもデータが外部に漏えいするリスクがあり、データ保護とガバナンスの観点で最も多く相談を受けます。
2つ目はAIエージェント利用に伴うリスクです。複数システムを横断できる分、権限設計が甘いと、本来不要なシステムまでアクセスできてしまう、あるいは過剰権限のエージェントが意図しない操作を行うといった事故が起こり得ます。ここは先ほどのNHI管理と直結します。
3つ目は開発者側です。AIコーディング支援で開発効率は大きく上がる一方、生成されたコードのレビュー不足、シークレット情報の混入、脆弱なライブラリの利用といった問題が懸念されます。さらに、自社独自のAIアプリを作る場合には、プロンプトインジェクション(※入力文を細工してAIの挙動を乗っ取る攻撃)などの攻撃に備える観点も必要です。
---業務利用・エージェント・開発と領域は違っても、根っこの課題は共通していそうですね。
尾山:そうですね。共通しているのは、AIそのものが危険なのではなく、人・AIエージェント・データ・権限を適切に管理するガードレールが必要になっているということです。出発点はやはり「誰が、どのAIを、どのデータで、どの業務に使っているか」の可視化。ここが見えないと、対策の優先順位も付けられません。
企業が今取り組むべきAIセキュリティ対策と、ネットワンと体験できること
---①可視化 ②データ保護 ③アクセス制御 ④ルール整備 ⑤検知・対応 の5つは、どの順番で整備するのが現実的でしょうか。
尾山:どれも重要ですが、一度に全てを整理するのは難しいので、優先順位をつけて進めるのが現実的です。最初はやはり①可視化。AIがどこで、誰に、どんなデータで使われているか分からないと、対策も選べません。最初の1〜2ヶ月は現状把握に集中してよいと考えています。
次に②データ保護と③アクセス制御。この2つは切り離せないので並行して進めます。承認済みAIサービスの整理、DLP(Data Loss Prevention)やSSE(Security Service Edge)などによるデータ保護、ログ・監査の仕組みの整備といった技術的統制はここに含まれます。その上で、④現場が安心してAIを使えるためのポリシーや開発ガイドライン、教育といったガードレールを敷き、最後に⑤検知・対応の高度化へ進みます。金融や医療のように規制の厳しい業界では、初期段階からデータ保護・ガバナンスの比重が上がるといった業種差はあります。
川原:AIセキュリティ領域はまだ未成熟で、国内外・業界別のガイドラインが整いつつある段階です。製造業や地方自治体向けなど業界ごとにも整備が進んでいます。まずはこうしたガイドラインを一通り俯瞰したうえで、自社の業種・規模に合った優先順位を決めていくのが現実的だと思います。
---Innovation Showcaseでは、何が体験できますか。
川原:Innovation Showcaseは、当社が実機を用いたデモや共創体験を提供している場です。すでにゼロトラストセキュリティのメニューが用意されており、提供開始から約2年で多くのお客さまにご来場いただいている、人気の高いメニューです。現時点でAIセキュリティ単体のメニューはありませんが、ゼロトラストセキュリティのメニューの中に「Security for AI」のデモ内容も一部組み込まれており、SASEを中心としたゼロトラストセキュリティの実装ステップに、Shadow AI対策を重ねる形で実機ベースにご覧いただけます。興味のある製品や運用サービスを絞り込み、そこからPoC・アセスメントによるロードマップ策定に進んでいただくことも可能です。
尾山:Innovation Showcaseを含め、さまざまなお客さまと対話しているなかで、弊社自身にも「どのような機能を、どう導入すべきか」というナレッジが蓄積されています。そうした知見もご提供できます。
---特定製品に閉じないというお話がありました。改めて、AI時代のセキュリティにおけるネットワンの強みはどこにあるとお考えですか。
川原:大きく2つあると考えています。1つ目は、マルチベンダーで築いてきたリレーションです。Project Glasswingに参加しているPalo Alto Networks、Cisco Systems、CrowdStrikeといったサイバーセキュリティのマーケットを牽引しているベンダーとは戦略的な提携も結んでおり、単なる製品販売に留まらず、脅威情報や今後のロードマップも含めた "少し先" の情報をいち早くお客さまに提供できる。この情報を、当社エンジニアが設計・構築・運用・障害対応まで一気通貫で支える体制につなげられるところが強みです。
2つ目は、テクノロジーを横断した俯瞰視点です。ネットワークセキュリティに加え、エンドポイント、クラウド、アイデンティティといった各領域のテクノロジーを継続的にキャッチアップしているため、お客さまのインフラ全体像を見渡したうえで、「この部分にはこの製品」「組み合わせるとより効果的」といった、アーキテクチャ全体を描く提案ができます
おわりに:AI時代のセキュリティを、ネットワンと共創する
川原:AI時代のセキュリティは複雑ですが、整理してみれば打ち手は確かに存在します。市場の変化が速く、情報収集そのものに労力がかかる時代だからこそ、特定製品に閉じず、マルチベンダーの知見とアーキテクチャ視点で全体最適を一緒に考える伴走者に意味があります。それがネットワンの立ち位置です。
社内で課題や問題意識がまだ言語化されていない段階でも構いません。「まずは話を聞いてみたい」「自社の現在地を確かめたい」──そんな段階から、ぜひお気軽にお問い合わせください。Innovation Showcaseでのデモ体験や、専門家との対話を通じて、次の一歩をご一緒できれば幸いです。
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